宇佐美 承『池袋モンパルナス』を読む。靉光から丸木位里まで、戦前に池袋にたむろしていた絵描き/美学生の間抜けな日常が赤裸々に描かれていて面白い。
しかし時代はすでに、自由とか前衛とかといったことばをゆるさなくなっており、最前衛のシュルレアリスム集団「美術文化協会」は弾圧をうける。軍は愛国心を鞭に、すでにとぼしくなっていたえのぐを飴に、協力をもとめた。絵かきは本来、理で考えることをしないから、あの戦争を侵略戦争だと理解していたものは当然例外で、描きたさ一心で応じたものは少なからずいたし、聖戦と信じて勇躍馳参じたものもいた。
しかし、絵描きはいっぽうで、画一の世界をきらう人たちだから、大部分のものは、しぶしぶと、あるいはテレ臭げにしたがっていた。なかには厭戦の気持ちを内に秘めて、貝のようにおし黙っているものもいたし、二、三のものは、わずかに皮肉をこめた絵や、ひたすら自己を凝視する絵を描いていた。つまり、かれらの大部分は、軍事国家にとって役立たずであった。
『池袋モンパルナス』 宇佐美 承 集英社 1990