デカルコマニー〔転写〕

シュルレアリストの画家、オスカー・ドミンゲスが絵画技法として導入し、マックス・エルンストが数々の名作を生み出した〔デカルコマニー:décalcomanie〕。デカルコマニーはロールシャッハテストで使われる、インクを垂らした紙を折って圧着し、偶然のかたちをとりだすのと同じ原理です。

絵画技法としては、撥水性のある紙や板を使って、より複雑なイメージを生み出します。日本では詩人の瀧口修造が多くの作品を残しています。1971年のインタビューで瀧口は「いわゆるデカルコマニーの作品は1962年にミニアチュールの連作として発表したことがあり、手法そのものは周知の通り1935年頃、シュルレアリストの画家オスカル・ドミンゲスが実験として発表したもので、私も当時、この「誰にも出来る」方法をこころみたことがあり、むしろ今頃こんな「古臭くなった」手法に執着しているのは世界で私一人位いのものだろうと自負している始末です。」と言っています。

私の心臓は時を刻む | 瀧口修造

自分が物心ついた頃には、すでに古くさくなっていた技法ですが、誰にでも面白いイメージを生み出すことができるものです。瀧口修造やその影響下でデカルコマニーの表現を現在まで追求している加納光於の作品を観て、自分でも試作したことがありますが、数点作って、デカルコマニーを使うのはやめてしまいました。その偶然の中から色や形を取り出すには、まだ若すぎたのでしょう。

まなざしー疼く飛沫を辿れ | 加納光於

テント芝居の野戦之月のチラシ制作を数年担当していて、これまでは木版画をメインのイメージにしていたのですが、今回のタイトルが「TOKIOネシア荒屋敷予想《鯨のデーモス》」ということで、カメラ片手にスナップ写真を撮りつつ、TOKIOネシアを徘徊していました。言葉で考えることをやめて、感覚で東京を感じようと、延べ一週間ほど歩き続けて、それを捕らえるにはデカルコマニーが適していると思いついたのです。

とりあえず、新宿の世界堂で紙を選び、水性の絵の具で試してみたところ、集中が必要だということを思い出しました。偶然の産物を手にするには、無心にならなければなりません。丸一日、デカルコマニーのための時間をとって、五十枚の紙に「デカり」ました。すぐに絵の具が乾き始めるので、一枚作るのに数分です。集中すると無意識に息を止める癖があるので、想像以上に体力を消耗します。五十枚をデカり終え、五枚を選びました。最終的にチラシのデザインに合うものを一枚決めたのですが、それはまだ迷いながら手を動かしていた、2~3枚目に作ったものでした。

デカルコマニーは描画なのか、版画なのか、どちらでもないのか。偶然を捕らえるという意味においては、スナップ写真が一番近いのかもしれません。


野戦❜22電子チラシ ダウンロード