子どもの頃、子ども雑誌か何かに、太陽の光に照らされた、雪の中で芽吹いている植物の写真があった。それは〈ユキノシタ〉ではなく〈フキノトウ〉だったと思うが、ほとんど雪の積もらない瀬戸内に暮らす子どもには、妙に魅力的に思えた。古井由吉の『雪の下の蟹』を読んだときも、その感覚がよみがえった。自分にとって「雪の下」は日常の中の非日常のようなものなのかもしれない。2022年2月10日に、現在暮らしている東京に雪が降った。大雪になる予報だったが、2センチの積雪量で、晴れた翌朝にはほとんどの雪は溶けていた。朝散歩しているときに、公園の花壇に残った雪の中から、顔をのぞかせている小さな花が目に入った。花の部分だけ雪が解けていた。花は発熱しているのだろうか。