現在の閉塞感を特定の政党や政治家や選挙の投票率のせいにすることは簡単だが、そのままの態度を続けていれば、いつか幸福が訪れると信じている人はいるのだろうか? 国家のみならず、あらゆる権力の抑圧に抵抗することは永続的に必要なことだとは思うが、そうであるならば、偏屈なアーティスト「ヨーゼフ・ボイス」のかつてのアイデアに、いま耳を傾けて、新しい社会の姿を考えてみるのもいいかもしれない。
人はいつも現にあるものから出発しなければなりません。そして現にあるものはますます多くの人にとって耐えがたいものであることが明らかになりつつあります。意識的にせよ、無意識的にせよ、ますます多くの人々が現在世界で確立されてしまったシステム、つまり西側の私有資本主義や東側の国家資本主義に反抗しつつあります。人間は本来的にこれら二つのシステムからの出口を求めているのですが、これら二つのシステムはますます統合されつつあり、それゆえに人間に対する集中的な抑圧体制が強化される傾向にあります。こう考えてくると、先ず第一のそして最も重要なことは、人間に一つの実際的な道を示すことです。即座には抜け出せられない悪魔的循環のように見える状況をどうすれば打ち破ることができるか。
それはまだ多くの人達によって理解しがたいものなのですが、最も容認しうる、そして最も簡単に理解されうる道は、民主主義の道なのです。それゆえに私はすでに数年前から、人々がどのようにすれば立法に干渉できるかを学べるように、直接民主主義のための組織を創立したのです。それはとても簡単な技術です。理解しがたいものではありません。つまり、最初の一歩は、もう政党のボスを選ぶ必要はない、ただ単にもはや政党政治を支持する必要はないという認識なのです。
それは最初の消極的処置です。つまりもう選挙しないということ。第二の積極的処置は、そのような選挙が行われるにしても、できるだけ特定のイニシアチブ・グループから出された法律提案にとどまるのではなく、国民投票にまで進むということです。いつも党の代表者を選ぶという慣らされた態度に参加しないということによって、現存する機構全体を内部から解体することが促進されるのです。しかしこの解体にとどまっている訳にはいきません。解体作業と同時に積極的な組織的運動を推し進めなければなりません、そして民主主義の内部ではそれが国民投票でしょう。それこそ、私たちが集中的に活動している事柄なのです。
『ヨーゼフ・ボイスの社会彫刻』ヨーゼフ・ボイスとのインタビューより抜粋