70年代末の松山にもまだジャズ喫茶は数件あった。いつもすいていたので、最盛期はもう終わっていたのだろう。数回通っただけで、常連になることもなかった。違った世界が都市にはあると、音楽の情報誌に記されているような、輸入レコードのジャケットのような匂いを求めて東京に来たのだと思う。1980年に上京してすぐに噂の「DIG/DUG」にも行ってみたが、求めていたような泥臭さは感じなかった。その頃は下戸でアルコールは苦手、金もない。時代はディスコ、テレビゲーム、ルービックキューブ、極めつけはウォークマン。演劇好きな年上の彼女に連れられ通う、紀伊国屋ホールのつかこうへい、花園神社の赤テント、丸井のDCブランドバーゲンと画材を買う、その頃はドンキーホーテの圧縮陳列のようだった世界堂が、新宿のイメージになってしまった。その後、国分寺で対抗文化の残滓を少し味わうことになるのだが、それもバブル経済によって、きれいに拭い去られてしまった。さほど意識はしていなかったが、この渇きを求めてこれまで生きてきたのだと思う。この本には、まさに自分が求めていた時代の匂い、60年末から70年初頭の新宿が描かれていて、“追憶に欲情をかきまぜたり. 春の雨で鈍重な草根をふるい起こ”すように読みました。もうすぐ春ですね、ちょっと気取ってみませんか。
3月27日(木)に高円寺素人の乱12号店で、地下大学 「新宿文化戦争」戦後秘話──「雑誌を街にした男」に話を聞こう。▶出版イベント:本間健彦『60年代新宿アナザーストーリー タウン誌『新宿プレイマップ』極私的フィールドノート』が開かれます。